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熊本家庭裁判所 昭和42年(少)2083号 決定

少年 M・T(昭二四・二・九生)

主文

この事件については少年を保護処分に付さない。

理由

(非行事実)

少年は

第一  昭和四二年七月○○日午前一一時ごろ玉名市○○×××番地衣料店○好シ○エ方において、同女に対し代金支払の意思もなくまたその能力もないのにあたかもこれあるかの如く顧客を装つてズボン一本他衣類三点(時価合計三、五〇〇円相当)を注文し、「代金は明日必ず持つてくる。」と嘘をいつてその旨同女を誤信させ、よつて即時同所において同女から前記衣類四点の交付を受けてこれを騙取し

第二  昭和四二年八月○日午前九時ごろ玉名市○○○××の○○番地薬局経営○西○喜方において、顔見知りの同人に対し返済の意思もなく、かつその能力もないのにあたかもこれあるかの如く装い「友達がハイヤー賃が足らないから三、〇〇〇円貸して下さい。すぐ持つて参りますから。」などと嘘をいつて同人をしてその旨誤信させ、よつて即時同所において同人から金三、〇〇〇円の交付を受けてこれを編取し

第三  昭和四一年一〇月○○日ごろから昭和四二年八月△日までの間四一回に亘り玉名市○○○駅外数ケ所において昭和四二年八月三一日付司法警察員追送致書(検五九七五号)添付の犯罪一覧表記載のとおり有限会社○○タクシー所属運転手○永○彦外二四名に対し所持金なく目的地到着後料金を支払えるあてがなく、またその意思もないのにあたかもこれあるかの如く装つてタクシーに乗車し○永○彦らをして目的地到着後直ちに、少くとも相当期間内に料金の支払を受けられるものと誤信させ、よつて同人らをして日的地までタクシーを運転走行せしめその料金合計四万九、五七〇円相当の財産上不法の利益を得たものである。

なお昭和四二年八月三一日付追送致書(検五九七六号)記載の犯罪事実中二の強姦の点については少年は終始和姦である旨主張しており、被害者は捜査官に対しこれに反する趣旨の供述をしているが、客観的事実としてあらわれた姦淫前後の被害者の行動および被害者が検察官の取調を受けた際告訴の取消を行い、その後の当裁判所の証人呼出しに対し所在をくらましている等の事実に鑑み和姦である疑いが濃厚であり、結局これを認定する資料がない。

(罰条)

第一ないし第三の各事実につき刑法第二四六条第一項(第一、第二)第二四六条第二項(第三)

(保護処分に付さない理由)

本件は昭和四二年九月二〇日裁判官により刑事処分相当として検察官に送致されたが、検察官から強姦の点については被害者の告訴取消があり、詐欺の点については全部または一部について被害弁償ずみで起訴は相当でないとして再び裁判所に送致されてきたものである。

そこで当裁判所において調査・審判するに強姦の点についてはこれを認定する資料が不十分であり詐欺の点については一応前記の事実が認定できる(但し第三の事実については刑事手続において厳格な証明手続により立証することには幾多の困難が予想される。)が、検察官主張のように第一および第二の被害については全部、第三の被害については一部につき弁済ずみで、残部についても月々支払つているので中等少年院仮退院中の少年を本件により更に少年院に送るだけの必要性を見出すことができなかつたが、直ちに本件を不処分とすることは少年の保護のうえで好ましくないので、少年を当裁判所の試験観察に付することによつて心理強制を加え、その在宅更生を図ることとし(昭和四三年五月二〇日)ていたものでその当初は少年も更生の意欲をみせ担当保護司の協力を得て少年の更生には期待が寄せられていたのであるが、再び生活態度が乱れ始め調査官において手当を急いでいた矢先不良交友の挙句昭和四三年八月○○日から同月明朝日までの間に恐喝、傷害の非行を行い、同年九月九日身柄付で当庁に係属し調査の結果、右事件については事案の内容、少年の年齢、性格、保護処分歴等を考慮し、本日付を以て刑事処分相当として検察官に送致することになつたものである。よつて、本件は本来刑事処分相当として検察官に送致し、前記事件とあわせて処罰を受けさせるべきものであるが、本件は前記のように検察官から起訴は相当でないとして再送致された事件であり、右再送致の理由も前記のように正当として是認しうるから本件を再び検察官に送致することはできない。

以上の理由により、本件については少年を保護処分に付さないこととし少年法第二三条第二項により主文のとおり決定する。

(裁判官 松尾政行)

「昭和四二年八月三日付司法警察員送致書添付の犯罪一覧表」〈省略〉

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